概要
1 公的年金制度の仕組み
(1)現在の公的年金制度について
わが国の公的年金制度は、全国民に共通した「国民年金(基礎年金)」と企業等に勤めている方が加入する「厚生年金(被用者年金)」の体系となっています。
- ア 全国民に共通した年金:「国民年金(基礎年金)」
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国内に在住する20歳以上60歳未満のすべての国民が国民年金制度に加入します。
すべての国民年金制度加入者に共通に給付される年金を「基礎年金」といいます。
- イ 民間の被用者や公務員の報酬比例の年金:「厚生年金(被用者年金)」
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民間サラリーマンや公務員が加入する年金です。
勤務されていた間の報酬をもとに年金が決定されるため、同じ期間勤めた方であっても年金額は人によって異なります。
出典:厚生労働省HP「年金制度の仕組みと考え方」より
(2)被用者年金制度の一元化
平成27年10月にそれまでの共済年金制度が廃止され、厚生年金保険制度に公務員及び私学教職員も加入することとし、被用者の年金は厚生年金保険制度に統一されました。
このことにより、70歳未満の地方公務員共済組合の組合員は、平成27年10月1日に自動的に厚生年金保険の第3号被保険者の資格を取得し、平成27年9月以前の地方公務員共済組合の組合員期間は、厚生年金保険法上、厚生年金保険の第3号被保険者期間とみなされることとなります。
また、共済組合の組合員であった間の厚生年金は、原則として共済組合がお支払いします。
なお、共済組合が厚生年金保険法による年金支給を行うのは、平成27年10月1日以降に年金の権利を取得した方のみであり、平成27年9月30日時点で共済年金の受給者である方は、その権利が続く間は、引き続いて共済年金をお支払いします。
2 国民年金
(1)被保険者
国民年金は、その被保険者の種類によって次の3つに区分されます。
共済組合の組合員は、国民年金の第2号被保険者に該当します。
第1号被保険者 | 日本国内に住所を有する20歳以上60歳未満の方(第2号・第3号被保険者に該当しない方) |
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第2号被保険者 | 厚生年金保険の被保険者(共済年金の組合員及び私学共済の加入者を含み、原則として65歳未満の方) |
第3号被保険者 | 第2号被保険者の被扶養配偶者で、20歳以上60歳未満の方 |
(2)国民年金の給付の種類(基礎年金)
国民年金の給付は、次の3種類です。
老齢基礎年金 | 保険料納付済期間等が10年以上ある方が65歳になったときに支給される年金 |
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障害基礎年金 |
以下のア又はイに該当する方が障害等級の1級又は2級の状態にあるときに支給される年金
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遺族基礎年金 |
以下のアからエのいずれかに該当する方が死亡したときに、その方の子のある配偶者又は子(その方に扶養されていた18歳に達して最初の3月31日を迎えるまでの子など)に支給される年金
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※ 障害基礎年金及び遺族基礎年金にあっては、初診日の前日又は死亡日の前日において、その前々月までの保険料納付済期間等が加入期間の3分の2以上あることが必要です(経過措置として1年間のうちに保険料滞納期間がない場合も受給資格があります。)。
(3)基礎年金の給付に要する費用
基礎年金の給付に要する費用は、基礎年金拠出金により賄われています。この拠出金は、国民年金の被保険者全体で負担することとされています。このうち第2号及び第3号被保険者に係る負担分については、国等の負担分を除き、各被用者年金保険者がそれぞれの被保険者(第3号被保険者を含む)の数に応じて負担する仕組みとなっています。
3 厚生年金保険制度の概要
(1)厚生年金の種類
老齢厚生年金 | 被保険者が一定年齢に到達し、労働することができなくなった場合に、その生活の安定を図ることを目的とした給付 |
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障害厚生年金 | 被保険者が病気又は負傷の結果、一定程度以上の障害の状態になって労働することができなくなったり、労働能力が制限された場合に、その生活の安定を図ることを目的とした給付 |
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遺族厚生年金 | 被保険者又は被保険者であった方が死亡した場合に、その遺族の生活の安定を図ることを目的とした給付 |
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(2)被保険者期間
ア 被保険者期間の種類
厚生年金の被保険者期間は、勤務されている事業所により、第1号厚生年金被保険者期間から第4号厚生年金被保険者期間に分かれています。
(ア)第1号厚生年金被保険者(一般厚年被保険者)
第2号~第4号以外の厚生年金被保険者をいいます。日本年金機構が所管しています。
(イ)第2号厚生年金被保険者(国共済厚年被保険者)
国家公務員共済組合の組合員である厚生年金被保険者をいいます。国家公務員共済組合連合会が所管しています。
(ウ)第3号厚生年金被保険者(地共済厚年被保険者)
地方公務員共済組合の組合員である厚生年金被保険者をいいます。各地方公務員共済組合が所管しています。
(エ)第4号厚生年金被保険者(私学共済厚年被保険者)
私立学校教職員共済制度の加入者である厚生年金被保険者をいいます。日本私立学校振興・共済事業団が所管しています。
イ 被保険者資格の得喪及び年齢制限
地方公共団体の職員となり、同時に地方公務員共済組合の組合員となった70歳未満の方は、その組合員となった日から第3号厚生年金被保険者の資格を取得し、退職したとき又は死亡したときは、その翌日から被保険者の資格を喪失します。
また、職員が70歳に到達したときは、70歳の誕生日に被保険者の資格を喪失します。
ウ 被保険者期間の計算
被保険者期間の計算は、被保険者の資格を取得した日の属する月からその資格を喪失した日の属する月の前月までの期間の年月数によって計算されます。
被保険者の資格を取得した日の属する月にその資格を喪失したときは、その月を1月として計算しますが、その月に第3号以外の厚生年金保険の被保険者若しくは国民年金の被保険者の資格を取得したときは、その月は、第3号厚生年金被保険者期間としません。【事例①参照】
組合員が引き続き他の組合の組合員となったときは、元の組合の組合員期間は、後の組合の組合員期間とみなされます。【事例②参照】
組合員がその資格を喪失した後1日以上の期間をおいて再就職することにより元の組合又は他の組合の組合員の資格を取得したときは、前後の組合員期間は合算されます。
(3)厚生年金の給付
老齢厚生年金の給付は、加入していた被保険者期間の種類ごとに、年金保険者がお支払いします。
障害厚生年金の給付は、年金支給の原因となった傷病について初めて医師の診療を受けた日に加入していた厚生年金の保険者が、まとめてお支払いします。
被保険者が死亡した場合の遺族厚生年金の給付(短期要件と言います。)は、死亡時に加入していた厚生年金の保険者がまとめてお支払いします。
年金受給者が死亡した場合の遺族厚生年金の給付(長期要件と言います。)は、加入していた被保険者期間の種類ごとに、年金保険者がお支払いします。
(4)平均標準報酬額(平均標準報酬月額)
ア 総報酬制
厚生年金の額は、総報酬制の考え方に基づき、標準報酬月額や標準賞与額に生年月日及び期間に応じた「再評価率」という概念を乗じて得た額の合計額の全期間平均の額、すなわち「平均標準報酬額」を基準として算定されます。ただし、平成15年3月までの期間は、報酬のみをベースに「平均標準報酬月額」に基づいた計算が行われます。
イ 平均標準報酬額
平均標準報酬額は、被保険者期間の計算の基礎となる各月の掛金の標準となった標準報酬の月額と標準賞与額に、再評価率を乗じて得た額の総額を、当該被保険者期間の月数で除して得た額とされています。
この標準報酬の月額には、職員が受けるものであれば、賃金、給料、俸給、手当その他の名称にかかわらず、すべて含まれます。ただし、常時又は定期に受ける通常の生計に充てられるものをいい、臨時に受けたり、3ケ月を超える期間ごとに受けたりするものは含まれません。
なお、寒冷地手当や通勤手当は、合算して1/12した月額が標準報酬の定時決定の際に算入されることとなっています。
ウ 平成27年9月までの標準報酬月額及び標準賞与額の取扱い
平成27年9月までの地方公務員共済年金制度では、標準報酬制ではなく手当率制がとられていました。このため、被用者年金制度の一元化に伴い、平成27年9月以前の各月の掛金の標準となった給料の額に手当率1.25を乗じて得た額を標準報酬月額と、掛金の標準となった期末手当等の額を標準賞与額とそれぞれみなして、平均標準報酬額及び平均標準報酬月額を計算することとなります。
(5)年金額の算定
年金額の算定は、一般式で表すとA×B×C(=単価×乗率×数量)ということができます。Aは、平均標準報酬額又は平均標準報酬月額であり、Bは、支給率を表す給付乗率(適正化後7.125/1,000及び 5.481/1,000)であり、Cは、被保険者期間月数です。これが本来の算定式です。しかしながら、数次にわたる制度改正があり、給付乗率の適正化(5%引下げ)が実施された結果、従前の額を尊重する観点から経過措置が設けられています。
具体的には、給与(給料)水準は従前のもの(平成6年基準)を用い、給付乗率について適正化前(引き下げられる前)の水準を用いて計算することにより得られた結果を本来の算定式と比較し(丈比べ)、高い結果となった方が適用されることとなっています。時系列でみて仮に給与水準や物価指数が上昇せずに推移するような場合は、経過措置をもって計算した方が高く算出される傾向が生じます。この経過措置では、過去の基礎数値を用いることとなるので、「時点修正」を行っておく必要があります。そこで、平成6年から現在までの物価及び賃金の変動を加味した従前額改定率を乗じることとなっています。
この経過措置を簡便算式で表すと以下のようになります。
(平均標準報酬額(平成6年給与水準)×適正化前給付乗率×被保険者月数)× 従前額改定率
以上が、年金額算定の実際の方法ですが、次章以下の解説では、便宜的に冒頭で説明した本来の算定方式で説明することとします。
(6)年金額の改定
ア 全国消費者物価指数等による年金額の改定
年金額の改定は、年金の算定の基礎となる給与の額を現在の水準に再評価し、再評価後の額で年金額を算定し直すことにより行われます。この再評価は、法律に定められた基準により賃金の変動率(名目手取り賃金変動率)と物価の変動率(全国消費者物価指数の変動率)をもとに毎年度行われます(平成16年年金制度改正)。
なお、令和3年4月からは、賃金変動率がマイナスで、かつ賃金変動率が物価変動率を下回る場合には、賃金変動率に合わせて改定することとなりました(平成28年改正法)。
イ マクロ経済スライド
平成16年の年金制度改正においては、上記アの改定を行う際、保険料の上限を固定し、計画的に積立金の取り崩しを行うこととするなど、収入の上限を固定した上で、年金財政の長期的な安定を、給付水準の調整により実現していくこととされました。具体的には、現役人口の減少及び平均余命の伸びという、マクロでみた給付と負担の変動に応じて、その収入の範囲内で給付水準を自動的に調整する仕組み(「マクロ経済スライド」といいます。)を導入しました。なお、デフレ経済下においてはスライドの自動調整が発動する仕組みとはなっていませんでしたが、賃金及び物価が上昇する傾向にあることを受けて、平成26年度は昭和13年4月2日以降生まれの方に限りマクロ経済スライドが発動し、平成27年度からは全年齢の方についてマクロ経済スライドが発動しています。
また、平成30年4月からは、賃金物価上場の範囲内で前年度までの未調整分を調整する仕組みが導入されました。
4 年金払い退職給付の概要
年金払い退職給付(法律上は「退職等年金給付」といいます。)とは、これまでの職域年金相当部分が、被用者年金制度の一元化に当たり廃止され、その代わりに民間の企業年金に相当する労使折半の年金として平成27年10月1日から創設されたものです。
※ モデル年金月額は、標準報酬月額36万円、40年加入等一定の前提において試算したものです。 (保険料は事業主と組合員の折半負担)
(1)「年金払い退職給付」の制度設計
ア 積立時
毎月の付与額(掛金)に基準利率で付利して累積し、積み立てます。この積み立てられた「付与額+利子」の総額を「給付算定基礎額」といいます。
- ※1 付与率とは、地方公務員共済組合連合会の定款で定められる掛金率です。
- ※2 付与額とは、付与率に標準報酬月額や標準期末手当等を乗じた額をいいます。
- ※3 基準利率は、国債の利回りに連動します。この率は地方公務員共済組合連合会の定款で定められ、各年の10月から翌年の9月までの期間の各月に適用されます。
財政運営は積立方式で運営します。給付設計はキャッシュ・バランス方式(※4)とし、保険料の追加拠出リスクを抑制したうえで、保険料率の上限が1.5%と法律で明記されています。
- ※4 キャッシュ・バランス方式とは、年金の給付水準を国債利回りや予想死亡率に連動させることにより、給付債務と積立金とのかい離を抑制する仕組みをいいます。
イ 年金受取時
給付算定基礎額を年金現価率(終身及び有期)で除して年金額を計算します。この「年金現価率」は、年金原資を終身にわたる年金給付の1年あたりの額に換算する率をいい、地方公務員共済組合連合会の定款で定められます。年金現価率は毎年10月に改定され、この改定に伴い年金額も同時に改定されます。
(2)年金払い退職給付の概要
ア 退職年金
平成27年10月以降の保険料を納めた期間で、1年以上引続く組合員期間がある者が退職した後65歳になった時または65歳以降に退職した時に、退職年金の権利が発生します。退職年金の半分は終身年金、半分は有期年金となっており、有期年金は10年又は20年のどちらかの支給期間を選択します。また、有期年金を一時金として支給を受けることもできます。
服務規律維持の観点から、現役時から退職後までを通じた信用失墜行為などに対する支給制限措置が導入されます。
受給者が死亡した場合は、終身年金部分は終了となりますが、有期年金に残余部分がある場合は、遺族に一時金として支給されます。
イ 公務障害年金及び公務遺族年金
公務に基づく負傷又は病気により、障がいの状態になった場合や死亡した場合には、公務障害年金又は公務遺族年金が支給されます。